自律神経の乱れが細胞修復を妨げ、病気を引き起こす
幼少期の子供にストレス性の病気はない
先天的な病気やアトピー性皮膚炎などの特別なケースを除き、幼児期から小学校の低学年のころは、頭痛や胃潰瘍、慢性の下痢などの症状を訴えることは少ないです。これは、ストレスが少ないために自律神経が乱れないことにあります。
しかし、小学校高学年になると、塾に行ったり、習い事で競争原理が働いたりしてストレスを感じはじめます。同様に、親も他の子供との能力の差を気にしはじめたり焦りだしたります。このような、精神状態になると、自律神経に乱れが出てきます。
次に、現代に生きる人に目を向けると、現代人は高ストレス環境で生活しています。したがって、多くの方は自律神経が関係する病気に罹っています。
自律神経が乱れるとどうなるのか
人間の体調は自律神経によって調整され、健康が維持されています。自律神経は、交感神経と副交感神経に大別され、この2つの神経がお互いに拮抗しており、片方が優位になると、他方の働きが低下します。
交感神経は、人の活動を亢進させる自律神経で、血管を収縮させて血圧を上げたり、心臓の働きを高めたりします。それとは逆に、副交感神経は、心臓の働きや呼吸を緩やかにし、心身をリラックス方向に導いてくれる自律神経です。
最近の研究により、このような働きは白血球に属する「顆粒球」と「リンパ球」のバランスを調節して免疫を安定させていたことが解明されました。
白血球に属する「顆粒球」は増え過ぎると病気を誘発する
健康な人間の白血球の比率は、顆粒球が55〜60%、リンパ球が35〜40%であり、精神が安定している状態ではこの比率で推移しています。
しかし、ストレスにより交感神経が優位な状態が続くと、顆粒球が大量に増え、逆にリンパ球が減少します。では、なぜ顆粒球が増えるとよくないのかを簡単にまとめます。
@顆粒球は、ストレス時など交感神経が優位なときに大量に増殖する。緊急時には2時間ほどで2倍にも増える
A顆粒球は、「細菌」や「変位した細胞」など大きな異物を攻撃する
B交感神経が優位時には、顆粒球の働きは過剰になり、細菌などに対して必要以上の「活性酸素」を放出する
C顆粒球の寿命は2〜3日と短く、死んでいく際にも大量の活性酸素を放出する
D顆粒球の放出する活性酸素の影響は正常な細胞にまで及び、正常細胞に傷をつけてしまう
上記したように顆粒球は、増え過ぎると大量の活性酸素を放出し、急性の炎症・潰瘍を誘発してしまいます。今まで原因が分からなかった急性胃潰瘍や急性虫垂炎、または急性肺炎などの発症が「交感神経優位の際に増殖した顆粒球の仕業」だと分かってきました。
また、リンパ球は副交感神経が優位の際に増え、リンパ球自身が出す抗体(免疫グロブリン)などを使って、ウイルスなどの小さな異物や腫瘍細胞に対して攻撃をします。
WBC(ワールドベースボール・クラシック)でイチロー選手が胃潰瘍になった真意
ここで、顆粒球の過剰な働きと病気の発症についての実例を紹介します。
野球の世界大会であるWBCの試合で、日本が世界一をかけ韓国と対戦したときのことです。勝つか負けるかの瀬戸際に、バッターボックスに立ったイチロー選手は、試合後、「人生において最も緊張と興奮の中にいた」と語っています。
その打席でヒットを打ち、日本は勝利しましたが、イチロー選手の体内に異変がおきました。その異変とは、その打席での「緊張と興奮」が最高潮に達した際に、胃潰瘍が発生したのです。その発症理由は、交感神経が優位になり過ぎ、顆粒球が数分のうちに大量に増殖し、その顆粒球が胃の細胞に攻撃を仕掛けたと推測されます。
このように、顆粒球が暴走した際には、短時間で細胞を損傷させてしまいます。したがって、「ストレスが続くと病気が起こる」といわれる真意を理解して頂けたと思います。
顆粒球の攻撃は、細胞の遺伝子を壊す
白血球に属する顆粒球は、細菌や変位した細胞に対し、活性酸素を用い攻撃をします。この攻撃を受けた細胞は傷つきます。
ここで理解して頂きたいことは、「細胞が傷つく」ということは、「細胞内の核(遺伝子)が傷つく」ということです。遺伝子が傷つくと、その細胞を修復・復元する能力が低下してしまいます。したがって、脳から判断すると、その部分の細胞は「異物」と認定してしまいます。すると再度、攻撃の対象になります。
再び、攻撃を受けた細胞は傷つきます。そして、細胞内の遺伝子も傷つきます。そうすると、細胞の修復・復元が上手くいかず、未完成の異物細胞が再びできてしまいます。
この悪循環は、その細胞が完全に壊死に至るまで続きます。
顆粒球をコントロールする器官
高ストレス時に顆粒球が増えるなら、現代人の多くが病気を発症しそうなものです。しかし、高ストレス下でも元気にしている人は多くいます。
そのメカニズムを説明します。顆粒球が増殖した際には、顆粒球は暴走し細胞に攻撃を仕掛けます。しかし、そのような暴走を放置していては、人は生きていけません。そのようにならないように、体には白血球(顆粒球・リンパ球)の暴走をコントロールする仕組みが備わっています。
それらをコントロールする器官が副腎です。副腎の働きの1つに、白血球の働きが過剰になったり低下し過ぎたりした際に、それを正常に戻す機能があります。
しかし、ストレスが続くと副腎は、ストレス対応のために大量にホルモンを生産しなければならず、徐々に疲弊していきます。副腎が疲弊してしまうと白血球の働きをコントロールすることができなくなります。
生き方を変えるのは難しい
多くの方は、高ストレスの生活を続けることは健康にはよくないということは理解しています。しかし、現代はのんびり生活できるような環境ではありません。そこで、私が日頃患者さんに提案していることがあります。
それは、「1日のうちに、8時間は副交感神経の優位な時間を持つことを心がけて下さい」ということです。
その方法とは、「3回の食事時には会話を楽しみ、リラックスして食べる。そして、食後45分ほどはゆっくりする」ことです。もう1点は、「質の良い睡眠を6時間確保する努力をする」。その2つの心がけで、合計8時間が確保できます。
世間では、「生き方を変えましょう」というキャッチフレーズを耳にしますが、人の生き方は簡単に変えられるものではありません。まずは上記したような簡単に出来ることから始めてみてはいかがでしょうか。
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