漢方薬の継続的な服用は危険である
漢方薬での治療
病院の薬が合わなかったり副作用が気になったりする方は、「漢方」の治療を望まれる場合が多いです。漢方薬は歴史も長く、信頼性の高い治療の一つといえます。弱っている臓器を短期に回復させたり、西洋の薬では、難しいとされる自律神経系を整えたりもします。
漢方薬は、薬草などの配合で、各臓器に働きかけて機能を回復させる効果があります。その方法を見つけ出した、先人の知識には驚かされます。
病気の方が漢方を選ぶ理由の一つに「副作用がないから」というものが多いです。
しかし、漢方薬も「薬」という言葉がついているように、患者さんの体質と合わない場合は多くの副作用が出ることもあります。
その副作用には、「胃腸障害」や「肝機能障害」または「むくみ」などがあります。一般的に知られていない副作用の症状に、「間質性肺炎」や「偽アルデステロン症」、「低カリウム血症」などの重篤なものがあります。
ここで、上記した一般的に知られていない副作用の説明をします。
@間質性肺炎:
肺は息を吸ったり吐いたりして、酸素と二酸化酸素を交換するための「肺胞」と呼ばれる組織があります。その肺胞に毛細血管が絡みあうことにより、酸素と二酸化酸素などのガス交換が可能になります。
これら肺胞や毛細血管をとり囲んでいる場所を間質といいます。
この「間質」の部分に炎症がおこる状態を間質性肺炎といいます。間質性肺炎の症状が進行すると呼吸困難や呼吸不全となります。
間質性肺炎を起こしやすいと報告されている代表的な漢方薬に小柴胡党湯(しょうさいことう)があります。小柴胡湯は肝機能の改善に効果があるといわれていますが、その反面、間質性肺炎の発症率も高くなると報告されています。
A偽アルデステロン症:
副腎皮質で造られるホルモンにアルデステロンというホルモンがあります。このホルモンは血圧の上昇や血液中のナトリウム濃度の調節に関与しています。
このアルデステロンは、ナトリウムを体内に留める作用とは逆に、カリウムに対しては体外に排出するように働きかけます。これによって後述する「低カリウム血症」に陥ります。
何らかの原因により、副腎皮質で造られるアルデステロンの量が多くなってしまう病気をアルデステロン症といいます。
体内のアルデステロンの分泌は多くなっていないにも関わらず、アルデステロン症と同じような症状をすることがあります。このような症状を「偽り」のアルデステロン症として、偽アルデステロン症といいます。
偽アルデステロン症を引き起こす漢方薬として甘草(かんぞう)があります。この甘草に含まれている成分にグリチルリチンと呼ばれる成分があります。
甘草を含む漢方薬を継続的に飲んだ場合、グリチルリチンが蓄積して偽アルデステロン症を引き起こす場合があります。
B低カリウム血症(ミオパシー):
低カリウム血症(ミオパシー)では、動くことが困難なほどの脱力感や筋肉の硬直や委縮などの症状を表します。前述した通り、アルデステロンというホルモンのバランスが崩れ、血液中のナトリウム濃度が低下することが原因です。
つまり、「アルデステロン症」や「偽アルデステロン症」の症状がある場合には、血圧の上昇以外にも低カリウム血症に注意しなければなりません。
このように、あまり副作用のないと思われている漢方薬にも多くの副作用があります。しかし、漢方薬を指導する先生の中には、「自然のものですから副作用はありません」と説明する方もいます。そのことが常識となり、一般の方は「漢方は副作用がない」と解釈しているケースが多いです。
私は、そのような副作用以外にも、漢方について以前から疑問に思うことがあります。それは、漢方医が患者さんに、「副作用がないから体質改善のために長くお飲み下さい」と説明することです。はたして、漢方薬は本当に体質を改善しているのでしょうか。
いつまで飲むのか
ある患者さんの例をあげてみます。便秘気味で週に2〜3回しか便の出ない方が、漢方薬を開始しその結果、毎日便が出るようになりました。
便秘から解放されたその患者さんは、漢方医に「毎日便が出るようになったのですがいつまで飲めばいいですか」と尋ねました。すると、、漢方医は「副作用がないので、体質が改善するまでお飲み下さい」と答える場合が多いです。
そして、その患者さんは漢方医の指示の通りに漢方薬を1年以上飲み続けました。その後、その患者さんは自分で漢方薬の服用を中止して、便秘が治っているかどうかを確かめました。その結果、便秘がひどくなっていました。
成分に副作用がなくても臓器が「依存する」という副作用がでる
漢方薬を開始する前は週に2〜3回の便通がありましたが、漢方を中断すると便が出なくなっていました。
その理由を、私は次の「ように考えています。
漢方薬は、副作用が少ないからといって長く飲んでいる場合が多いです。今回も、漢方薬の作用で便がでるようになったのは事実です。ただ、便を出す臓器の腸は、「漢方薬に依存」してしまいます。腸は、1年以上も自分で便を出すという行為をサボってしまったのです。
成分自体に副作用が少なくても、長期間飲むことで「臓器がサボる」という副作用がでてしまいます。したがって、この患者のようなことが起こったのではないかと考えています。
確かに漢方薬は、西洋医学が用いる薬よりも副作用は少ないです。ただ、その薬を、長く飲み続けることで、体はその漢方薬がないと働きが悪くなるという反応があるということを考えて下さい。
漢方薬で女性ホルモンの数値が改善したが・・・・
もう一つ例をあげます。私の治療院に来院されていた40歳の不妊症の患者さんが、漢方薬を服用し、短期間で女性ホルモンの数値が劇的に改善されました。旦那さんも同じように漢方薬を服用し、精子の量・質がとてもよくなりました。
高齢で女性ホルモン数値が低い患者さんのホルモンの数値を、短期間で上げることはとても難しいです。しかし、漢方薬ならそのことが可能です。この結果に、私も漢方薬の実力を再認識しました。
患者夫妻もその結果に喜び、数カ月間は漢方薬を服用しました。しかし、数か月が過ぎても子供ができないことを心配した患者さんは、再検査をしました。ところが、今回の数値は漢方薬を飲み始める前よりも悪くなっていました。
漢方薬を飲み続けているにも関わらず数値が低下してしまったのです。私は、その理由を次のように考えています。
漢方薬が強制的に臓器に働きかけ、短期的に多くのホルモンを造るように作用したことは素晴らしい成果です。しかし強制的に動かされた「臓器が、数ヶ月間の間に「疲弊」してしまった。または、「漢方薬への慣れがでて漢方薬に反応しにくくなったなどの反応が起こったのです。
つまり、漢方薬は、「薬」は弱っている臓器を回復させているわけではなく、薬の刺激で強制的に臓器を働かせていたのです。それは、西洋薬も漢方薬も同じということです。
薬やサプリメントを使い、体を強制的に回復方向に向けることには賛成です。しかし、そのことと併用して、機能が低下した臓器を回復させていく治療を加えるべきと私は考えます。
そして、なぜ「その臓器が弱くなるのか?」というメカニズムを知り、解決することが一番大事なのではないでしょうか。