腎機能低下と高タンパク食について江部先生への質問

こんばんは、今回のブログ内容は、「腎機能が低下した人はタンパク制限は必要なのか」について、いつもお世話になっている江部先生に聞いてみました。

糖尿病や慢性疲労症候群を患うと、腎機能低下も併発する場合が少なくありません。

そこで問題になるのが、タンパク制限です。糖質や小麦グルテンを抜く食事法をおこなうと、どうしても高タンパク・高脂質になります。

そこで、多くの方に質問を受けるのが、腎臓病と高タンパク食についてです。

そこのところを川本が江部先生に聞いてみました。

 

江部先生

ご無沙汰しております。

この前に 愛知方面で糖質制限に理解のある病院はありませんか?の質問で教えて頂いた伊藤喜亮先生の所に、名古屋在住で私が診ている患者さんが行かれました。

 「丁寧にお話して頂いた」と喜んでいました。有難う御座いました。

 

今日、質問があります。それはタンパク質と腎機能低下の件です

下記のことでタンパク質が腎臓に悪いという理由は正解でしょうか?

また、医師に指摘されているほどの腎機能低下の場合は、やはりたんぱく制限は必要でしょうか?

生理学に詳しい方は、次のようなことをおっしゃり、タンパク質が腎臓に悪いということを述べておられます。

『酸塩基平衡に関係しているのは、「肺」と「腎臓」ですが、このうちの「腎臓」は、酸塩基平衡の調節し不揮発性酸を排泄しています。

そして、不揮発性酸を排泄することができるのは腎臓だけです。

 蛋白質は、アミノ酸が結合してできていますが、この蛋白質は、窒素(N)、硫黄(S)、リン(P)などを含んでいるので、
代謝時にNO42-、SO42-、HPO42-と行った強酸である不揮発性酸を生成します。

 このような強酸がそのまま血液に排泄されると、血液のpHが大きく酸性に傾いてしまいます。

そこで、腎臓が重炭酸イオン(HCO3-)を産生し、これらの代謝産物を排泄しpHの調節を行います。

重炭酸イオン(HCO3-)は、生成された不揮発性酸とほぼ同量が消費されますから、腎臓では重炭酸イオン(HCO3-)を再吸収し、補充しています。

そして、重炭酸イオン(HCO3-)の再吸収と不揮発性酸の排泄は、腎臓のみで行われます』

そのために、「高タンパク食を摂ると、腎臓に負担がかかる」という説明がよくされていますが、そのあたりはどうなのでしょうか?

宜しくお願いします。

 

江部先生からの回答

川本さん

 腎機能低下とタンパク質摂取についてですが臨床的には最近大きな変化がありました。

 まず腎機能正常な人が高タンパク食を食べたからといって、腎機能が悪化するといった論文は過去ありません。

 腎機能がすでに悪い場合は、近年低タンパク食が推奨されてきましたが、その根拠は弱かったのです。

 

腎機能に関して、日本腎臓病学会編「CKD診療ガイド2013」において、

eGFR60ml/分以上あれば顕性たんぱく尿の段階でも、たんぱく質制限の必要なしと明示されました。

 

「日本腎臓病学会編 CKD診療ガイド2013」

 ・eGFRが60ml/分以上あれば、顕性タンパク尿の段階でも、タンパク質制限必要なし。

  →即ち糖尿病腎症第3期でも eGFRが60ml/分以上ならタンパク制限必要なし。

  → 糖尿病腎症第3期で、eGFRが60ml/分未満には、エビデンスレベル低い(科学的根拠あまりなし)がタンパク制限を推奨。

  →糖尿病腎症以外のCKDは、 eGFRが45ml/分未満でタンパク制限推奨。

    しかし個別の検討が必要。
従いまして、糖尿病腎症第3期でも、eGFR60ml/分以上なら、糖質制限食OKです。

また、米国糖尿病学会(ADA)はPosition Statement on Nutrition Therapy(栄養療法に関する声明)
Diabetes Care 2013年10月9日オンライン版

において、糖尿病腎症患者に対する蛋白質制限の意義を明確に否定しました。

根拠はランク(A)ですので、信頼度の高いRCT研究論文に基づく見解です。

今後は、糖尿病腎症第3期以降で、eGFRが60ml/分未満の場合も、患者さんとよく相談して、

糖質制限食を実践するか否か、個別に対応することとなります。

                                  江部康二

 

いつも、私の質問に対し丁寧にお答えしてき、江部先生には本当に感謝です。

腎臓機能低下と高タンパク食のことは、医学界でも明快な答えがないまま、「慣習」が根強く、皆様困っていることと思います。

腎機能が軽度低下した糖尿病患者さんは、一度、江部先生の所に行くことをお薦めします。

「補足」

 eGFR値とは

腎臓がどれくらい機能しているかを、簡単かつ正確に推定し評価できます。 eGFR値が減少してくると、死亡率・入院率・心血管病の発生率が増加することが判明しています。

また、eGFR値を用いることで「慢性腎臓病(CKD)」の早期発見・早期治療が可能と考えられています。

「eGFR値の測定基準」

eGFR値が90以上であれば腎機能は正常といえます。

eGFR値 (ml/min/1.73㎡) 腎機能低下
90以上 正常
60-89 軽度の腎機能低下
30-59 中等度の腎機能低下
15-29 高度の腎機能低下
15未満 末期腎不全     
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